大阪万博での1000人太鼓で感じたこと
2025年7月3日、私は大阪万博EXPOアリーナで、堺太鼓主催の和太鼓イベント「1000人太鼓」に演奏者として参加しました。
参加チームは108チームにものぼる、前代未聞の太鼓まつりでした。
私はここに、和太鼓演奏の新たな潮流を見ました。
参加者全員で同じ曲を一斉に叩くスタイルが、和太鼓演奏の中から台頭してきたことです。
堺太鼓の音頭のもと参加者全員で「わっしょい!」を叩きました。1000人が一堂に集い、チームや国境を超え大迫力で演奏されました。様々な団体が同じステージで同じ演目を演奏する。演奏者、観客、主催者、事業者の皆さんが一体となり大変な高揚感に包まれました。共に「わっしょい!」を演奏したことは、0泊3日(往復夜行バス)の強行軍で参加した私にとって、唯一無二の素晴らしい経験となりました。
和太鼓チームが出す演目は、チームの中で作曲し、あるいは既存曲を自チーム用にアレンジし、お祭りで発表するのが通例です。
「わっしょい!」はその逆です。
和太鼓曲を異なるチームや個人が集結し、大人数で演奏する。
アリーナやスタジアムで、単一チームでは表現できない演奏で会場に集う人々を圧倒する。
過去、成田太鼓まつり、岡谷太鼓まつりなど大規模なお祭りのテーマ曲や、「ヨーソロー」(東日本対震災の復興のために和太鼓プロ奏者TAKERU作曲)が成功しています。
堺太鼓や、1000人の仲間たちと「わっしょい!」の演奏をとおして、和太鼓の合同演奏はこれから発展する演奏スタイルになると確信しました。
合同演奏曲の普及に立ちはだかる障壁
和太鼓曲は、一般に世間に広く普及していません。普及のためには様々な障壁を乗り越えていく必要があります。
では、合同演奏曲に立ちはだかる「障壁」とは何でしょうか?

まず演奏のため太鼓を集めなければなりません。
お祭りで叩く太鼓は参加チームが持ち寄り、足らない場合は太鼓店などからレンタルします。
つぎに太鼓の輸送手段です。
通常はお祭りの参加チームが分担し自家用車で持ち込みます。一度に40~50台の太鼓を運送するには、3トントラック1台が必要です。
曲を知る手段も限られています。
太鼓曲を知る手段は主にYouTubeなどの動画配信サイトです。
ポップスやクラシックのように、太鼓曲はメディアを通してスピーカー経由で曲を鑑賞することはなく、演奏会場にいって実際に演奏を見なければ和太鼓の迫力や良さが伝わりません。
最後に演奏者を集めることです。
地域で活動する太鼓チームの多くは活動領域を持っており、他チームの参入は余り歓迎されない傾向があります。いわゆる縄張りです。新たに地域のお祭りに参加するチームは、参入を受け入れてくれた地元チームや地域に感謝のうえ、演目の重複を避ける等十分に配慮する必要があります。
人を集めるための最大の障壁は、個々の和太鼓チームが持つ「意識の壁」の存在です。
他のチームの持ち曲は叩かない、他チームから指導は受けてはならない、というルールを敷いているチームがあります。他者の演目を叩くのは自チームの統制や、打法などの伝統を乱す原因となるので、他チームの曲を演奏したり指導を受けることを禁止する、ということでしょうか。
自チーム以外の曲を叩かない理由に「興味がないから」ということもよく聞きます。
それぞれの太鼓チームにはそれぞれ得意とする演目を持ち、それを鉄板の演目としてお客さんに喜んで頂いています。鉄板の演目を突き詰めていく探求心はとても大切ですが、行き過ぎてしまうと「ほかに興味がなくなってしまう」ことが時としてあります。自分が求める太鼓がいつしか頭打ちになってしまい道を見失っている。そんな話も耳にします。
自分の肌に合う太鼓しか叩かない、という意見もあります。自分達の肌に合うオリジナル曲を作り続け、独自の演奏でお客さんに喜んで頂く。オリジナル曲を持たない太鼓チームは、普及している有名曲を自分用にアレンジして舞台に出す。一見立派な考えであるように思います。
では、太鼓は誰のために叩くのでしょうか?自分の肌に合う太鼓だけ叩いて、演奏を聴くお客さんにメッセージが届くでしょうか?時として自分の肌にあう曲ばかりを演奏するうちに、お客さんの反応が「???」となることがあります。また、鉄板の演目はともかくとして、何年も同じ曲ばかり叩いていると、演奏の完成度が向上したにも関わらずお客さんに飽きられてしまいます。
私は一見「何となく自分の肌に合わない」と思われる太鼓についても叩いています。太鼓曲は聞くだけでなく、叩いてみて初めて分かることがとても多いのです。叩いているうちに、作曲者の意図が理解できたり、見ているだけではわからない、演奏者としての喜びを発見できるからです。今回「わっしょい!」から多くの発見と喜びを頂きました。
発見と喜びは様々な障壁を超えていく原動力になります。
そして今、およそ2年かけて作曲し、更に2年かけて演奏する仲間を集めてスクラムZを演奏するところまで漕ぎつけました。和太鼓の新たな潮流「参加者全員で同じ曲を一斉にたたく演奏」を演奏者のご理解ご協力のもと、さらに発展させていきたいと思います。
さあ、皆さん!これからクルーやファンの心を一つにまとめ、勇気・団結・誇りといったラグビーの精神を体現するジャパンラグビーのアンセム(代表曲)を目指し、一緒に「スクラムZ」を叩きましょう。そして全国に、世界に羽ばたきましょう!


