チームスクラム練習会について

第2話 なぜ意識の壁ができるのか

BLOG記事「なぜ意識の壁ができるのか」

第1話「和太鼓演奏の新たな潮流」の中で「合同演奏に立ちはだかる障壁」には何があるのか、について説明しました。
第2話「なぜ意識の壁ができるのか」では、この点についてもう少し掘り下げたいと思います。

 

目次

【意識の壁は日本音楽の成り立ちにある】

BLOG記事「なぜ意識の壁ができるのか」
なぜ、和太鼓の合同演奏の提案に対して意識の壁ができてしまうのでしょう?

それは、和太鼓がルーツに持つ「日本音楽」の特異性にあり、それがおよそ50年前に誕生した「創作和太鼓」に受け継がれているためです。

学習音楽百科(1978年発刊、音楽之友社)によると「日本音楽の特異性」は3あります。

1点目は「成立当時の音楽がほとんどそのままの姿で残され、ほかの音楽との関わりをふくめながら共存している姿」です。
平安時代に誕生した「雅楽」、室町時代に完成した「能楽」、江戸時代に確立した「浄瑠璃」など。

2点目は「日本の音楽の多くは、外国との交流によって成立してきた」ということです。
雅楽はもともと朝鮮や中国、ベトナムから伝わったもので、日本において催馬楽(さいばら)、朗詠(ろうえい)などの声楽曲を生み出しました。

3点目は、意識の壁の最大の原因である「日本音楽は閉鎖的な社会に育ってきた」という点です。
一つの芸術が「家元」とか「流派」という限られた社会の中で「秘伝」としてうけつがれてきたことです。
また、技術を秘伝として伝えていく閉鎖社会では、その指導は楽譜を通して行う、というものではありません。弟子は先生の演奏表現を忠実にまねる、という形をとっていたのです。

学習音楽百科が発刊されたころは、和太鼓は日本の音楽として紹介されていません。

和太鼓は神楽や祭事などで使われる楽器のひとつであって、音楽ジャンルとして未確立であったからだと考えられます。
1978年当時、創作和太鼓は鬼太鼓座(1971年~)、鼓童(1981年~)などのプロ和太鼓集団が立ち上がり、林英哲をはじめとするソロ和太鼓奏者が和太鼓文化の担い手となって活躍を始めたころで、創作和太鼓は、現在ほど世間一般に広く認知されていませんでした。

その後、習得が大変な尺八や三味線などの和楽器に比べて和太鼓は「太鼓を叩けば音がなる」手軽さもあって和太鼓人口が急激に増えました。
全国で15千の団体がある、とも言われています。もはや和太鼓は日本で最も普及した和楽器であるといえます。

創作和太鼓チームにはプロ集団に憧れて有志で立ち上げたチーム、郷土芸能から発展または分離して作られたチーム、さらにそこから新たに組成されたチームなど、様々な成り立ちを持っていますが、
その多くは太鼓チームの創始者が打法や楽曲の指導にあたり「秘伝」として受け継いでいきながら太鼓チームを運営しています。
技術や楽曲をチーム外に出すことを禁じているチームが大変多いのです。
まして「チーム外の人間が創作した曲を一緒に演奏するということは論外である」と考えているのか「一緒に演奏しよう!」と提案しても無回答のチームが多いのが現状です。

その中で、プロ和太鼓奏者がアマチュア和太鼓奏者向けに楽曲の提供をしています。プロ和太鼓集団鼓童は、自身のホームページで和太鼓の楽譜や演奏動画をダウンロード可能とし、著作権緩和により自由な演奏を可能としています。
まつり工房は自作の和太鼓曲を、一般財団法人日本太鼓協会も普及のための合同演奏曲「令和」(林田ひろゆき作曲)を、普及用に動画と楽譜を掲載しています。

ただ、普及曲を広く提供しようという動きは今のところプロの和太鼓奏者に限られており、また自身のネットワークやメディアを使っていること、普及の対象が主としてアマチュア和太鼓演奏者であるため、まだまだ限定的な動きであると思います。
私のようなアマチュア演奏者が和太鼓曲を作り、広く世の中に普及を試みる、ということは殆ど前例がない取り組みなのです。

【意識の壁は超えられるか?】


以上のとおり、現在の創作和太鼓の世界は「日本音楽の特異性」が保持されているのですが、和太鼓に馴染みがない方には創作和太鼓の成り立ちや、背景にこのような事情があることを知りません。
和太鼓を演奏する方の中でさえ、このような事情が論じられることはあまりありません。
それだけ「当たり前の感覚」になっているのでしょう。特に自作曲「スクラムZ」普及のために尽力いただいている我孫子市、プロラグビーチームNECグリーンロケッツ東葛の関係者の方々から 「なぜスクラムZのような良い曲を、和太鼓チームの皆さんは演奏したがらないのか不思議だ」との声をよく聞きます。

スクラムZは純然たる創作和太鼓曲ですが、普及のターゲットを「和太鼓愛好家を含む世間一般の方々」としている点、ラグビーの応援歌としてスタジアムなどの大規模な演奏会場での演奏を想定している点、西洋音楽のように、ひとつひとつのパッセージに意味を持たせ、形式を与え音楽を構築している点など、今までの創作和太鼓曲とは異なるコンセプトに基づいて作られています。
和太鼓の世界から見ると「スクラムZ」は異質な曲です。

日本人は、異質なものや外国からの輸入品を上手に同化させて文化を発展させるのが得意な民族です。日本音楽の特異性である「伝統を保持しながら新しい音楽と共存していく」「日本音楽の多くは外国との交流によって成立してきた」がスクラムZの普及活動の中で発揮されれば、和太鼓奏者が持つ「意識の壁」は超えることができる、と私は信じています。

▪️参考文献 学習音楽百科第3巻「音楽のあゆみ」(1978年発刊、音楽之友社) あしたの太鼓打ちへ(林英哲著 2017年発刊、羽鳥書店

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