チームスクラム練習会について

第9話 (特別記事)世の中が必要とする太鼓とは

今世の中が必要としている太鼓は「つながる太鼓」です。つながる太鼓はさまざまな演奏場面をとおして人と人とを繋いでいきます。つながる場面、つながり方、つながる人々は実に様々です。そしてつながることによって、今までに考えられなかったような新しい動きや作用が生まれます。「つながる太鼓」は世の中を動かす力となり、世の中をどんどん面白くしていきます。いよいよ和太鼓が未知の力を発揮する時が来たのです。

つながる太鼓は、作曲した後の「曲の普及」が大切です。スクラムZは鼓童や大太坊のようなプロの和太鼓集団と異なり、無名のアマチュアによる和太鼓曲であるうえ、普及のチャネルを持っていません。過去前例がないアマチュアによる和太鼓曲の普及には、様々な障壁が立ちはだかりました。それでも普及活動や日々の練習で試行錯誤を重ね、我孫子市やプロラグビーチーム「NECグリーンロケッツ東葛」の協力を得て、ようやく普及の糸口をつかむことが出来ました。

これからスクラムZの演奏活動をとおして「つながる太鼓」とは一体どういうものか紐解いてみたいと思います。

  1. スクラムZを通して今までどのような人々が、どのようなきっかけで繋がったか、これからどのような人々と繋がろうとしているのか。
  2. 繋がることによって、どのような発見や喜びがあり、これから世の中にどのような動きや作用をもたらすことが期待できるのか。
目次

【スクラム!初演~スタジアム演奏】

個人の活動から始まった「スクラム!」(スクラムZの原曲)の演奏・普及活動は私の身近な太鼓仲間への呼びかけから始まりました。和太鼓演奏にも作曲にも、これといった実績がない私でしたが、曲をとりあげてくださった我孫子和太鼓愛好会や、日本太鼓協会公認指導員有志12人の支えにより、2023225日埼玉県鴻巣市クレアこうのすにおいて「スクラム!」の初演が実現しました。

その翌月、私はGR東葛あてに「和太鼓で『スクラム!』という曲を作ったので、ラグビー公式戦で演奏させてほしい」と初演の動画を添付しメールを送りました。するとその1時間後、当時のGR東葛ホストゲーム運営責任者、角田道生さんから「素晴らしい演奏だ。ぜひGR東葛の公式戦で演奏をお願いしたい」と電話を頂いたのです。

【写真】2023513日の演奏 GREENROCKETS TOKATSU提供

演奏ステージは2023513日、当時一部リーグだったNECグリーンロケッツ東葛と、この1戦で一部昇格を目指す2部リーグの三重ホンダヒートとのリーグ入替戦という大舞台でした。この時の試合や演奏の様子は別の機会で触れますが、スクラム!のスタジアム演奏やサポーターの応援の甲斐なく、12‐13の僅か1点差でGR東葛はゲームを落とし、2部降格が決定しました。せっかくGR東葛から出演機会を頂いたにも関わらず、チームに勝利をもたらすことが出来なかったことに、私は作曲者として敗北の責任を痛感しました。

【スクラムZの誕生】

513日の演奏後、私は「試合に勝つための太鼓曲」として、スクラム!のリニューアル作業に取り掛かりました。スクラム!は2019年ラグビーワールドカップ日本大会の日本チームの大活躍から着想を得て作曲しました。スクラム!は、キックオフからパス回しやスクラムなどのゲーム展開を和太鼓で表現しています。リニューアル版では演奏者にもお客さんにも、ラグビーの試合で勝利するイメージを持たせるため、太鼓の振りを見直しました。曲の終盤は勝利が決まった場面を再現すべく、様々な和太鼓表現を盛り込みました。

こうして20238月、スクラム!を原曲とし、試合に勝つための和太鼓曲「スクラムZ」が誕生しました。チームの勝利のため、演奏者・選手・観客・運営スタッフ・事業者・地域の力をつなげ、スタジアムに「応援のワンチーム」を作るべくスクラムZが発進しました

【意識の壁を超えたチーム】

6月から12月まで、ラグビーはシーズンオフになります。チームスクラム発足当初は、神奈川県藤沢市の湘南美晴太鼓、東京都国分寺市の武州太鼓団、および個人で活動する日本太鼓協会指導委員会(東支部)が参加を表明し、15名でスタートしました。この期間を利用して関東一円の太鼓チーム、特に高校・大学の太鼓チームへの参加を呼びかけ、パンフレットを同封し手紙を送りました。時にはターゲットとするチームや学校サークルの定期演奏会に出向きました。

このころ、スタジアム演奏はスクラムZの原型であるスクラム!の1回だけで、リニューアルしたてのスクラムZは無名の存在でした。学校やチームに共演を提案しても、ほとんど無回答でした。学校チームの多くはプロ和太鼓奏者を顧問に招へいし、プロ和太鼓奏者の指導のもと演目や打法の伝統を受け継いでいます。このため、スクラムZのような「外部の無名作家の曲」は、学校チーム側として受け入れ難かったのだろうと推察します。

その中で唯一「部内で話し合った結果、演奏に参加することで意見が一致した」と回答したチームがありました。
東京理科大学和太鼓樹」です。

東京理科大学和太鼓樹は、毎年、日本武道館で行われる東京理科大学入学式や大学太鼓連盟などのイベントで活躍する実力派チームです。入学後から和太鼓を学び始めるメンバーが殆どで、先入観に囚われず「和太鼓を楽しむ」ことが出来たからこそ、素直に「スクラムZ」を受け入れることが出来たのだと思います。

学校以外の太鼓チームに同様に参加を呼びかけましたが、結果は学校チームと同じで、殆どが「無回答」でした。その中で「北本あずま太鼓」は2023年秋に参加を表明しました。

 北本あずま太鼓は、埼玉県北本市を拠点に活動するチームです。会員は小学校1年生からシニアまで親子兄弟孫世代と幅広く、「秩父屋台囃子」など伝統芸能系から「スクラムZ」「リアン」のようなアマチュア創作太鼓まで、チーム全体が広く和太鼓を楽しんでいます。会長の青木智子さんから「スクラムZは子どもたちに人気がある」という嬉しいお便りを頂きました。その後度々出張稽古に出向き、一緒に練習するようになりました。

【演奏の定着化と課題の克服】

2023513日から2025511日の2年間は、GR東葛のホームグラウンド「柏の葉公園総合競技場」で演奏実績を積み上げていきました。

2年間で4回演奏し、演奏した試合はすべてGR東葛が勝利しました。お客さんの反応は上々で「応援に一体感が生まれ、会場がひとつになった」との声を聞くようになりました。その一方で演奏者はなかなか集まりませんでした。その要因として以下の4点が考えられます。

  1. 演奏者の多くは千葉県外から参加している。
  2. 演奏者の多くは掛け持ちで太鼓チームに所属し、本番演奏日が他の予定と重複する。
  3. 県外の個人参加者を集め練習日の調整を試みても、なかなか折り合いがつかない。
  4. ②③のため長期間スクラムZに触れない間に色褪せ、徐々に魅力が薄らいでいった。

2023年から2025年までの2年間、スクラムZの演奏・普及活動の結果、試合会場で演奏を聞いたお客さん、後援を頂いた我孫子市、GR東葛から強い支持を頂くことが出来ました。あとは演奏者を集めるだけです。2025-2026シーズンは、東葛地区を中心により多くの演奏者を集めることができれば、はじめてスタジアムに「応援のワンチーム」が集結します。2025-2026シーズンは、応援の力でGR東葛を勝利に導くこと目指し、公式戦でお客さんにとっても、演奏者にとってもより魅力的なイベントを企画することとしました。

【ジャパンラグビーのアンセムを目指す】

202595日、我孫子市は「市民団体が制作した和太鼓によるラグビー応援歌『スクラムZ』を100人で演奏」というタイトルでプレスリリースを発信しました。プレスリリースの中で「『スクラムZ』は、ラグビーファンの心を一つにまとめ、勇気・団結・誇りといったラグビーの精神を体現するジャパンラグビーのアンセム(代表曲)を目指しています。」と紹介されました。大切なのは「ラグビーファンの心を一つにまとめる」ことです。これが実現して、はじめてスクラムZが「つながる太鼓」になるのです。

スクラムZはジャパンラグビーのアンセムを目指します。これからスクラムZで繋がる範囲が、NECグリーンロケッツ東葛から全国のラグビーチームに広がります。やがて日本全国がワンチームとして繋がります。全国各地でスクラムZを演奏することによって、スクラムZはジャパンラグビーのアンセムとして成長します。

202710月、ラグビーワールドカップオーストラリア大会が開催されます。ワールドカップのゲームでスクラムZを演奏し、世界最強といわれるニュージーランドチーム(オールブラックス)のハカに対抗します。ここで、つながる太鼓が国境を超えて、スクラムZを通じて世界中がラグビーと和太鼓を介して「ワンチーム」で繫がります。これがチームスクラムの最終目標です。

その第1歩として202628日(日)に100人太鼓を開催する準備に入りました。

【つながる太鼓、つながる人々】

9月5日、我孫子市発プレスリリースと同時に、チームスクラムのホームページから100人太鼓の演奏者募集と練習会の開催要項を投稿しました。参加者募集のチラシを地元の大学と市役所に配布しました。最初の2カ月は口コミと、ちらしを見た我孫子市内の方や茨城県竜ケ崎市などの近隣地区から7~8名集まりました。その多くは和太鼓未経験者で、はじめてバチを手にした方でした。202511月時点では、参加者全体で50名に満たず、100人太鼓が実現できるか危ぶまれる状況でした。

 11月中旬、GR東葛から「100人集まるめどが立った時点で公式SNSから28日の100人太鼓を告知する」と連絡がありました。しかし参加者が50人に満たない状況では開催の告知ができません。そこでGR東葛に「開催の告知が現時点難しいので、まず『演奏者募集』を告知頂きたい」とお願いしました。すると、1118日、GR東葛公式SNSから「演奏者募集」の告知を出して下さいました。

GR東葛公式SNSの告知をきっかけに、人々がつながり始めました。

(ラグビーファンと和太鼓とのつながり)
告知後わずか2日で、メッセージを添えて応募した方が10人ほど集まりました。

・グリーンロケッツのファンで何度も演奏を見てきました。ぜひ仲間に入れてください。
・エイサーを3年、地域の祭りの囃太鼓は20年以上やっています。よろしくお願いします。
・住んでいるところは東京都ですが、小学校4年生の息子と2年生の娘があびこラグビースクールに通っています。もし可能なら、母・息子・娘の3人で参加してみたいです。

ラグビーファンの中に和太鼓経験者が少なからずいたことには驚きました。嬉しかったのは、過去3年間、私達の演奏を見て、即座に参加を表明してくれたことです。チームスクラムの演奏は、しっかりGR東葛ファンの心に届いていたのです。

(地域のチームとのつながり)
体験練習をとおして参加を表明してくださったチームがありました。

つくし野麒麟太鼓は、我孫子市を中心に活躍する若く力溢れるチームです。多忙な演奏スケジュールの中、呼びかけに応じて体験練習に参加しました。チームスクラムの練習の様子やスクラムZを気に入ってくれ、100人太鼓の参加を決めてくださいました。

我孫子河童太鼓は昭和57年から続く伝統のチームです。創始者の中村先生の指導のもと、山呼や創作盆太鼓を得意としています。体験練習を通して参加を表明して下さいました。チームスクラムとの合同練習のほか、こちらから出張練習をさせて頂き、相互に交流が生まれました。

我孫子和太鼓・龍翔は、成田太鼓まつりに出場経験がある有力チームで、佐藤いみ子さんは「我孫子和太鼓まつり」合同演奏テーマ曲「躍れ我孫子」を作曲しました。土日の練習場所の確保に苦戦していた私達に、ご自宅の和太鼓スタジオを使わせてくださいました。土日のスタジオ練習を通じて、我孫子和太鼓・龍翔とチームスクラムとの交流が生まれました。

体験練習から入ったチームの皆さんから「スクラムZの練習が楽しい」とお話し頂きました。202595日以降、我孫子市内の近隣センターで平日夜間週2回、合計50回以上の練習を重ねてきました。練習の過程で改善と工夫を重ねた結果、誰一人取りこぼすことなく練習を続けることが出来ました。体験練習に来られた皆さんに、普段どおりにスクラムZを教え、共に練習を楽しんだことが良かったのかもしれません。

12月に入って参加人数を確認したところ、我孫子市内だけで60人近くに達していました。

(練習動画の作成)

 伸び悩んでいた市外からの参加者を増やすため、私の太鼓仲間「日本太鼓協会公認指導員(東支部)」と、北本あずま太鼓の有志が、スクラムZの練習動画(宮1パート宮2パート)を作成しました。監修は公認指導員東日本支部長の萩原牧恵さん。模範演奏は東支部役員の菊池康平さん、木下道子さん、北本あずま太鼓の鏑木克海さんです。公認指導員と鏑木さんは和太鼓演奏や教育活動で鍛えた指導力と和太鼓のスキルをもって、プロの和太鼓奏者に匹敵するクオリティで動画を作成してくれました。

練習日程が合わない和太鼓奏者、練習会場まで足を運ぶことができない遠隔地の和太鼓奏者にとって、心強い練習のパートナーとなることでしょう。

【日本太鼓協会の支援】

スクラムZの普及にあたっては、一般財団法人日本太鼓協会から多大な支援を頂きました。

まず演奏で使用する太鼓の調達です。スクラムZの演奏には通常30台近い太鼓が必要です。2024324日に行われた豊田自動織機シャトルズ愛知戦では34台の太鼓が必要でした(下図=太鼓配置図(〇が太鼓))。

当時は公認指導員向けの太鼓レンタル制度がなく、参加者やボランティアから太鼓を貸してくださる方を募集し、本番演奏ぎりぎりまで太鼓の調達に奔走しました。

その後、日本太鼓協会公認指導員向けにレンタル制度が整備され、太鼓本体のレンタル・PA機材の手配・太鼓の運搬・運転手の手配をパッケージ化し、私たちのように大量に太鼓を使用する団体向けに配慮してくださいました。太鼓の調達方法が確保できたことで、スクラムZのスタジアム演奏が将来的に持続可能となりました。

演奏者の募集にも協力頂きました。2025111日に行われた日野レッドドルフィンズ戦では、日本太鼓協会からの紹介で埼玉県吉見町から「吉見太鼓」が参加くださいました。吉見太鼓は「吉見町公認PR大使」を務め、地元吉見町で活躍するアットホームな太鼓チームです。

日本太鼓協会が発刊する「太鼓Times」(20259月号)では「100人太鼓演奏者募集」の記事を見て「神波」が応募して下さいました。神波は女性4人のユニットで、演奏に舞や三味線を入れるタレント揃いです。既定の太鼓演奏とは一味違った、斬新な舞台を作る今後楽しみなチームです。

【今後の展開】

(NECグリーンロケッツ東葛)
2025年12月11日、JR東日本とNECの連名でNECグリーンロケッツ東葛」の新たな出発についてのプレスリリースが発表されました。2025-2026シーズンでNECグリーンロケッツ東葛としての最後のシーズンとなりますが、譲渡先のJR東日本は「ホストエリア(千葉県の 8 自治体)、チームが運営するアカデミーやファンクラブ、ホストスタジアム(柏の葉公園総合競技場)も引き継ぐ予定」と伝えています。私達チームスクラムは柏の葉総合競技場での演奏はこれが最後、との覚悟をもって今シーズンに臨みましたが、今シーズン開幕直前にこの報道を聞き、来期も同様にJR東日本のクラブチームを応援することを誓いました。我孫子市をはじめとするホストタウン、GR東葛ファン、NECやJR東日本の皆さんと共に、私達チームスクラムはこれからもJR東日本のクラブチームを和太鼓で応援し、さらに「つながる太鼓」の輪を拡げていきます。

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